20100510

二十九話

あれは傘ではないのです、屋根といいます。
わたしたちのいるここは家です。傘には玄関や廊下がありません。 
人は母親の手のように、きつく柄をにぎりしめて傘にはこばれてきます。
寝入る人を夜から朝へはこぶことが、家のもっとも知られる役割です。 
人を歩かせるかわりに、家は人を眠らせるのですから。


足音を集めるように耳をすませば五月は何度でもやってくる