20100515

三十話

模型の山の頂上に模型の喫茶店を置きました。
わたしたちはそこを訪ねるのです。
実物大のわたしたちは、模型の頂上を訪ねるのに山を登る必要がない。
すでに見下ろしているので。
だから風が吹くようにいきなり窓から席に着くと、コーヒーを二つ頼みます。
模型のウェイトレスが模型の盆で、模型のカップを運んできました。
飲み終えると(何しろ小さいのであっという間です)わたしたちは立ち上がります。
窓から視線をさかのぼって、実物大のわたしたちにひょいと戻ってもいいのだが、それでは模型の喫茶店を、模型のウェイトレスをあまりに馬鹿にしてる。
だからきちんとお金を払い、釣りを受け取ると、模型の薄いドアを押しひらきました。
ここは偽札だけが使える世界。そうつぶやいたわたしたちの瞳に、矢のような夕日が押し寄せてきます。
それが差し向けたベッドライトであることを、ここでは、わたしたちだけが知っているのです。


じゃあ救済のロープウェイ何台必要? 世界を闇に包むほどのシーツ