20100508

二十六話

いい足音のする靴をみつけたので、どこかに出かけようと思う。
そう話しながら眠ってしまった晩に見るのは、どこまでもくだり続ける細い階段の夢だ。
階段の途中には自販機がある。何度も車にひき潰された、ちらしのように平たい缶が明かりに浮かび上がる窓。デザインの痕跡しかない缶の、何だかどれも見覚 えがある気がして立ち止まっている。

そんな走り書きのある紙切れが、古い本のページから額に落ちてきた。
私の字ではない。だが夢には、たしかに見た覚えがあった。




ベーカリーの日除けの影で半分があかるい顔の中の無表情