20100508

二十五話

話しかけると隙間を覗くような気分になる。
だが隙間などない。相手は犬なのだから。
垣根にひっかかっていた吸殻をしっぽが叩き落す。
犬よ、私は人間である。
私の帰り道に信号は二つしかない。
その二つにおまえは挟まれて、じっと聞き耳を立てている。
「そうか血の色だからなのか」
人間たちが、赤になるといっせいに止まる理由に
はたと思い至ったという顔で。
目があうと、向こうから気まずそうに逸らせた。



階段がむきだしなのは舌だから アパートの白く塗り直す屋根